UKノッティンガム出身のプロデューサー、マット・カトラーのプロジェクト「Lone」。現在、マンチェスターを拠点に活躍する「Lone」が奏でる音色は異常なまでに心地良い。それは無意識にしか置かれていなかった感覚を、あらゆるエレクトロミュージックのフィルターを通してアウトプットした美術作品的な音楽だ。『フジロックフェスティバル2015』への出演が決定したLoneの優雅で叙情的なエレクトロサウンドを、今夏リアルタイムで体現できる。

これまでのリリース作品、評価

 2009年発表の「Ecstasy and Friends」。この時期の作品を皮切りにLoneの存在は注目され出した。当時、テイスト的な周辺アーティストして、真っ先にUK名門レーベル「Warp」のアーティスト「Boards of Canada」が挙げられていた。シンセサイザーの立体的な浮遊感、溶け込む様なゆらぎの幻想サウンドは共にみられる大きな要素だ。

 しかし、Loneのビートの組み立てやエディットの傾向は、ボーズ・オブ・カナダの伝家宝刀ダウンビート、チルアウトといった内向的にクールな類いとは少々趣きが異なる。当初はハウスを多用、BPMはどれも比較的早めであったり、スコット・ヘレンやフライング・ロータスに通ずるHIP HOPアプローチ、「タメ」によるグルーヴ生成が顕著にみられるなど、むしろアッパー系なビートアプローチをとっている。

「Airglow Fires」

 その後の2012年にR&Sレコーズからリリースした「Galaxy Garden」は、彼の持つ音楽性がフルに詰め込まれた決定打となる会心の力作となった。Loneの存在感をシーンに強く知らしめた。

 「世界の選曲家」として名高いジャイルス・ピーターソンが主宰する『WORLDWIDE AWARDS 2014』において、2013発表の楽曲“Airglow Fires”はトラック・オブ・ザ・イヤー1位を獲得。昨年の2014年リリースアルバム「Reality Testing」からは「2 Is 8」がベスト・ニュー・トラックを獲得するなど、各方面からの音楽的評価は極めて高いものだ。

RADIOHEADのリミックス盤参加でも注目

 また、2011年のRADIOHEAD作品「The King Of Limbs」のRemixアルバムに参加した事も記憶に新しい。Loneは、原盤4曲目収録の「Feral」をチョイスし、華麗にリミックス。トライバルビートでクールなリミックスっぷりを魅せるも、楽曲中盤からレディオヘッドのリミックスというよりも、LONEのトラック上でトムヨークが歌っている様に展開するあたりに、LONEの音楽的パーソナリティがクッキリと滲み出てかなり面白いものだった。

Loneの持つ音楽性

 Loneの音楽は、ハウス、HIP HOP、アンビエント、ドラムンベース、ブレイクビーツの細かいチョップやエディット手法などなど、これまでのテクノシーン、エレクトロミュージックの要素を数多く含んでいる。

 しかし、すぐさまその背景となるアーティストやジャンルが思い浮かぶ様なリバイバル感やオマージュ感をLoneのトラックからは殆ど感じない。時期的な色としてはモロに90年代を感じさせるアルバムもあるが、全くもって古さは感じない。斬新な音色や、革命的なビート構築、それらとはまた別次元でのさりげない「新しさ」を感じるLONE独自のアプローチ。ここが彼の最大の魅力だろう。

 クセがなく、自然と意識に溶け込んでくるシンセサイザーの音色とメロディ。その音使いは、どこか日本人の琴線に触れる部分が多く感じられる。特にアルバム「Reality Testing」ではその傾向が如実で、幽玄なLoneのエレクトロサウンドにスッと入り込む事が出来る。

 だが、受け入れやすくとも中身はディープな奥行きだ。メランコリックな音階と音色のシンセサウンドに、レコード・ノイズ、ガヤ、フィールドレコーディングで得た水流の様な自然音響トラックを加えるなど、音像のソースは複雑ながらも、出音はただただ気持ちが良いという、まるで一瞥して感動が得られる美術の様な魅力を持っている。

 80年代の夢見心地な雰囲気もあり、90年代のシリアスな空気感もある。かといって、リバイバル色の濃いものではなく、「新しさ」をさりげなく感じる。明るくも暗くも感じられる曲調。サイケデリック感もあり、オーガニック感もある。つかみ所がない様で非常に受け入れやすく、アンビバレントな魅力が統合されたエレクトロサウンドという所がLONEの音楽の特徴だろう。

 また、90年代にエレクトロシーンを賑わしたハウス、デトロイト・テクノやレイヴサウンドを親しんできたテクノファンにとって、Loneのシンセサウンドやビートのアプローチは、思わずニヤリとしてしまうかもしれない。

 Loneことマット・カトラーの音楽で全体的に共通している事は、優雅で、美しくて、どこかやさしくてノスタルジック。次世代のエレクトロシーンを担う「Lone」の包み込む様な幽玄エレクトロサウンドは、フジロックフェスティバルのステージで如何なる色彩を放つのだろうか。  【文・平吉賢治】

参考・これまでのリリース作品情報

2009年12月8日「Ecstasy and Friends」
2010年12月27日「Emerald Fantasy Tracks」
2012年04月28日「Galaxy Garden」
2013年7月20日「Airglow Fires」(12インチ/アナログ盤)
2014年06月14日「Reality Testing」

参照楽曲

「Airglow Fires」

「 2 Is 8」

「Jaded」

メモ

◆ジャイルス・ピーターソンとは この人の選ぶ楽曲は間違いない、と言われる程の音楽センスの塊と評される重鎮DJ。ハンパ無い量の音源を倉庫に所有している。ラジオDJとしても超有名で、2000年代中頃にFMのJ-WAVEで夕方放送していた「World Wide 15」では、「どこから見つけた?!」という感じの、超無名の超恰好良い楽曲をバンバン流していた。隠れた名曲を発掘する能力は世界一とも。

◆RADIOHEADとは 世界で最も成功をおさめたUKオルタナバンド。プログレ、ニューウェイヴからオルタナ、エレクトロといった音楽性を持つが、一言で括り難い音楽。陰鬱で精神性が深い特性。プロデューサーはナイジェルゴッドリッチという大物。

◆名門「Warp」とは UKの変態テクノレーベル。マニアックすぎるコアなエレクトロアーティストばかりだが、その内容があまりに凄過ぎて、1990年代〜現在まで、メインとなるエレクトロシーンを築いた。「ワープ系」と棚の区切りがある中古CD屋もたまに見かける。ブラックドッグス(プラッド)、オウテカ、エイフェックスツイン、ボーズオブカナダ、クラーク、など、シーンを築き上げた有名アーティストが数多く所属。総じてマニアックだが、音楽的評価は激高。