女優の藤吉久美子が去る4月23日、東京・南青山MANDALAで自身初の音楽ライブを行った。昼夜2部構成。いずれもチケットはソールドアウト。多くの観客に囲まれながら憧れだった音楽の舞台で、アンコールを含む全13曲を万感胸に迫る思いで熱唱した。【取材・撮影=木村陽仁】

 このところ女優が歌う音楽が人気を集めている。大竹しのぶのアルバム『歌心 恋心』や常盤貴子、南野陽子、桃井かおり、高島礼子たちが参加した『なかにし礼と12人の女優たち』など。いずれもセールスチャートで好成績を収めている。

 女優が歌う魅力は、芝居で培った表現力と発声力をもって、歌に込められたメッセージを忠実に、またはそれ以上に表現してみせる説得力にある。歌声だけでなく動作や表情を使って歌の世界観を映し出す。指の先まで流れているようだ。

 歌手デビューをしていない藤吉だがこの日のステージはまさに圧巻だった。芝居人生33年の歩みの中で身につけた表現力、そしてもって生まれた天性の声域。女優が歌う事の魅力の答えをこのステージで出してくれた。

情景が浮かび上がる迫真の歌声

[写真]藤吉久美子が初ライブ【2】

 明かりが絞られたホールを、点々と置かれた薄い橙色のライトが照らしていた。落ち着きのある空間の右手には一面ガラス張りの壁があり、そこには可憐な花々がこの日を祝うように咲き満ちていた。ホールでは既に100名ほどが着座。ステージと客席の距離は殆どなく、吐息も聞こえてきそうな密着した空間で、藤吉の登場を待った。

 第二部は午後7時に幕を開けた。黒のドレスに身を包んだ藤吉は登場するや平原綾香のヒットソング「Jupiter」を歌い上げた。初めこそ緊張はあったものの、ワンフレーズを歌い終えた瞬間にその歌の世界観に入り込んだ。さながら女優が役に入る瞬間のようなものだった。

 顔つきが変わり、声の張りにも変化がみられ、ホールすべてが自身の舞台であるかのように、圧巻の歌唱力で観客を引き込んでいった。楽曲それぞれに1つ1つの物語があるとするならば、藤吉はその情景を一瞬のうちに作り出した。歌声と表情、そして内面からあふれ出す雰囲気。観客はその迫力に心を奪われていた。

 「Jupiter」から始まったライブは、曲を重ねるごとに深みを増していった。歌手が表現するライブとはまた異なる、クライマックスへ向けて走り出しているような独特の感覚があった。曲が終わるたびに拍手喝さいが起きたのは言うまでもない。

 特に、高橋真梨子の「for you」はまさに圧巻だった。全身全霊をもって放たれた歌声、そしてそれぞれの言葉には説得力があった。一方、中島みゆきの「糸」は優しくなでやかに歌い上げた。恋人を思う女性の気持ちが体全体から映し出されていた。

 バラードナンバーだけではない。DREAMS COME TRUEの「うれしい!たのしい!大好き!」や松任谷由実の「真夏の夜の夢」などアップテンポなナンバーも挟んで会場を盛り上げた。彼女の真骨頂、「オペラ座の怪人」ではしっかりと高音を出し切り声域の広さで会場にインパクトを与えた。

[写真]藤吉久美子が初ライブ【3】

 後半は、白いYシャツにジーンズで登場。プリンセスプリンセス「M」やMISIA「逢いたくていま」などで盛り上げると、松任谷由実「春よ、来い」や中島みゆき「時代」を熱唱。アンコールでは竹内まりやの「人生の扉」を披露して感動を届けた。

 藤吉が歌い上げた楽曲はいずれも情景が浮かび上がっていた。俳優業33年の歴史の中で培った「伝える」ということ。その訴求力が歌声にはあった。特にアンコールで披露した「人生の扉」は力強く、そして壮大なものだった。

 その一方でMCでは笑いに溢れていた。トークで会場を盛り上げるなど、真剣勝負の歌とは違うアットホームな感じが印象的。藤吉の笑顔もまた素敵だった。

 観客は年配者が多くを占めていたが、若者の姿もところどころに。ファン層の幅の広さを感じた。この日は名曲ばかりのカバーソングだったが、若者のなかには知らない曲もあっただろう。それでも藤吉の歌声を通じて楽曲の意味を理解し感動しているようだった。一方、年配者はオリジナルがリリースされた当時の自分を重ね聴いているようにも見え、穏やかな表情で聞き酔いしれていた。

 なお、第2回ライブを、出身地である福岡で開催することを発表した。8月5日、自身の誕生日に行う予定だ。